平成19・20年度 教育方法改善プロジェクト

概要

1.「取組みの背景と必要性」

高専設置後40数年経過し、高専を取り巻く、国内外の産業や経済、国際環境も大きく変貌した。学生・保護者の高度な教育指向、我国の技術者教育の実態の変化から、内外の産業動向や技術トレンドを見据えながら、企業と密着した技術者の育成が急務になっている。求人倍率が高いという数値的な評価に安住した従来の教育の延長にとどまらずに、「新たな枠組み」を探索するアグレッシブな取組みが不可欠である。

其の枠組みを模索する中で、「高専生の将来像における多様性」を担保すると共に、より活躍の場である企業と連携のもとでの人材育成の方策を模索することは極めて重要で有ると考えている。

今回のプロジェクトは、学外の教育力、特に企業等との連携を活用した、今後の技術者教育のあるべき姿を調査研究する提案型のプロジェクトである。高専の卒業生に対する求人倍率は非常に高いが、その割に社会的認知度が低い。高専の技術者教育は産業構造や雇用の変化に対応した柔軟な体制が出来ているのか、現状でうまく行っているのか、企業から見て本当にほしい人材を育てているのか、もう一度謙虚に見直して、将来の高専の技術者教育を支える方針や体制を見出したい。現在の高専でできる技術者教育の手法にとどまらず、柔軟な思考のもとに新しい枠組みの教育体制を持った高専の必要性が出てくることもいとわない。更に女性技術者の養成にも踏み込む。現在の国立高専の女子学生の学生比率は約17%で、その割合の増加への具体的施策を提案したい。将にこのプロジェクトは高専における「技術者教育のルネッサンス」を目指すものである。

2.プロジェクトの内容

(1)中堅企業が求める技術者像のケーススタデイ

日本の技術を支えるコア技術(オンリーワン技術)を持つ中堅企業が必要としている技術者像を調査する。多様な結果が出てくることが予想されるが、その1 つ1 つの中に重要な観点が見えてくることを期待している。これは、地域の産業・企業への関与で高専の存在価値を示すために重要な視点となる。

ここでは、全国的なアンケート調査と平行して、特に関信越地区において、直接面談形式を実施して、個別的では有るが、より、具体的でかつ、複数の立場〔社長、技術長、現場主任などの階層)から意見や考えを聞く。女性技術者の採用の課題についても合わせて調査する。入社後の待遇や昇進などにも触れる。

企業と学校側との意識や現状認識の乖離や両者の対応の早さにまで踏み込んで、関東信越地区における企業経営者等によるパネルディスカッションを実施し、何が求められているのかについて、意見の交流をする。(東京)

(2)学外の教育力 ― 企業と連携の可能性と限界

技術者教育は学校内での教育だけ不十分な事はこれまでも指摘されており、特に学校での細分化された知識の教授が課題とされている。特に学生にとって、ものづくりの企画から生産、販売までのチェーンを学ぶことは学校の場だけではできない。全国的に近隣の企業組織の力を借りて、企業でのものつくりに必要な技術(総合的なシステム技術)を学ぶ機会はどのように得られているのか、その実効性、課題などを調査する。(全国高専)

インターンシップ実施当事者や企業経営者およびインターンシップ等参加学生などによる講演会やパネル討論会などの実施からの情報をも参考に、学校側と企業側の意識や取組などの課題とその解決法も含めて、外部教育力が「学生に対してどのように作用して、その結果、どのようは資質や意識、知識が育っている」かという観点での調査資料を収集する。

更にその中から、成功例や失敗例を取り上げ、より詳細な調査や参加した学生の聞き取り調査や送り出す教員の立場にも言及して、具体的な教育プログラムの提案まで進める予定である。

(3)海外の技術者教育 ― 企業との連携を中心に調査
※女性技術者の育成に関しては、今回は特に、力を入れて調査を進める。

アメリカ、ヨーロッパ、アジアはそれぞれの歴史・文化の下で技術者教育を行っている。技術者教育に関する各種調査結果について企業との連携教育の実態について調べ、実際にどのように機能しているのか、どのような背景の下でうまく行っているのかを調査する。あわせて、女子学生の教育についての学校側の取組についての聞き取り調査を進め、高専への参考になる事例を紹介する。

具体的には各国の工学系の専門教育機関であるポリテクニークや専門大学での技術者教育の方法は、背景となる社会システムとうまく補完しながら機能していると考えられるが、その方法を調べる。

更に、多くの調査で日本と外国の学生に「学習意欲や将来の志」などの調査で、日本はその意欲が半分以下の結果もおおく、数値だけでなく、その本質や向上の方策についても踏み込んだ調査を考えているこの国際的な調査は、国際的に通用する技術者教育を考える上でも貴重な資料となると考えられる。多くの資料の入手は国内でも可能であるが、現時点、現場の動きを直接自分たちの目で冷静に見るようにしたい。これらの調査の比較検討の中で日本の社会的背景に適した日本型の技術者教育モデルのヒントや情報を提示したい。

実施計画・方法

本プロジェクトでは、実行委員会及びワーキンググループを設置し、2 年間で実施する。
平成19年度(1 年次)は、次について実施する。

実施事項

1)国際的な現地調査

アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、アジアにおける技術者教育の現状、技術者の各国内での位置づけ及び技術者認証との関連等について。いわゆる大学以外での高等教育機関でのキャリア教育についても情報を収集する。最近は各国も職業教育からキャリア教育のような表現に変えつつあり、教育の仕組みや社会との関連をあわせて調べたい。これらの幾つかは、国内の教育関連研究機関や大使館でも情報が集められる。また国立高専の中でも調査結果があるのでその収集作業も進める。

2)国内的な現地調査

  1. 大学、高専等における「技術者教育のあり方等」、「インターンシップを含む学外教育力の有効活用」等の現状について
  2.  全国各地域における企業の社内技術者教育制度の現状及び技術現場におけるニーズ等について

3)高専及び企業における、アンケート等による調査及び意見集約

高専の教育の中で育ててきた技術者像との比較調査。企業内教育や幾つかの企業で開設している教育機関も参考にしたい

4)大学関係者及び関東信越地区企業人等による講演及びパネルディスカッション等の実施

インターンシップや企業との連携教育、企業人の派遣講師制度なども含め、学校、企業、学生などの視点から実例を中心に討論。

5)中間報告書のまとめ作成(年度末)

実施のためのプロジェクトの設置

1)プロジェクトの設置

関東信越地区の各高等専門学校の教務主事及び専門分野の各代表からなる実行委員会と、その下部組織としてワーキンググループを設置してプロジェクトの体制を組む。

2)ワーキンググループは、以下の2班に分かれて、調査・検討・研究を行う。

第1班:技術者教育の現状分析と産業界との意識ギャップや女性技術者育成などの観点からの今後の課題
第2班:技術者教育におけるインターンシップや産学共同教育、外部講師や専門家の参加などの外部教育力の活用の現状と課題、とくに活用の具体とその実効性へのプログラムの提案

なお、平成20年度(2 年次)は、前年度明らかになった現状・問題点・改善点や訪問・視察等から参考となる事例、改善点等に対して提案を行う。また、各高専がどのように取り組んでいるかだけではなく眼を外部に向けたこの調査研究により、 7 年間高専教育モデルの模索を行ない、高専の特色ある技術者教育に対する各高専の提言を示す。

  1. 報告書を高等専門学校教員研究集会に提出し、特色ある技術者教育に対する広範囲な実践事例及び情報を提示し、提言を示す。
  2. 研究討議の結果をもとに再検討を加え、集約する。
  3. 最終報告書を作成する。

スケジュール

学内検討会

第一回 日時:平成19年4月25日 場所:東京高専1棟3階会議室

第二回 日時:平成19年7月26日 場所:東京高専1棟3階会議室

第三回 日時:平成19年8月31日 場所:東京高専1棟3階会議室

第四回 日時:平成19年9月21日 場所:東京高専校長室

地区実行委員会

第一回 日時:平成19年9月25日~26日 場所:八王子マロウドイン