自死事案を忘れることなく、大切な命を守る決意を込めて花壇を設置

 

令和2(2020)年10月に当時本校学生会長であった電子工学科3年生の学生が自ら命を絶つという大変痛ましい事案が発生しました。本校教職員がこのような悲しい出来事を忘れることなく、命の大切さを胸に刻み、大切な命を守る決意を持ち続けるよう、令和6(2024)年7月11日(木)、本校敷地内に向日葵(ひまわり)の花壇を設置いたしました。同日は、ご遺族をはじめ、本校教職員や学生会役員など約20名が出席し、ご遺族、校長及び学生代表の3名で向日葵の苗の植栽を行いました。

 

  

(植栽の様子)

 

 

【校長の言葉】

 令和2年10月5日、当時本校学生会長であった電子工学科3年生の学生が自ら命を絶つという大変痛ましい事案が発生しました。大切な学生の命を守ることができなかったこと、さらに、ご遺族に寄り添うことができずご心労を深めることとなったことに、深くお詫び申し上げます。

 

 この事実経過の検証や背景・要因の解明等に関しては、独立行政法人国立高等専門学校機構に設置された第三者調査委員会で現在もなお調査が続いております。一方、日々教育活動を継続していく学校としては、本件をはじめとする悲しい出来事を決して繰り返さぬよう、現時点での本校としての取組方針を別紙「本校学生の自死事案に関する学校としての取り組みについて」のとおり整理し、全教職員一丸となって再発防止に取り組んでまいります。

 

 また、本校教職員がこのような悲しい出来事を忘れることなく、命の大切さを胸に刻み、大切な命を守る決意を持ち続けるよう、ご遺族の同意を得て、本日(令和6年7月11日)、向日葵の花壇を設置いたしました。

 

 向日葵は太陽に向かって周りを見渡しながら真っ直ぐに伸び、太陽のような花を咲かせ、その姿は見る人に力を与えてくれます。向日葵は亡くなられた学生にとって特別な意味を持つ花でもあります。本校教職員がこの悲しみを決して忘れず、学生に光を見上げる力を与えられるような真っ直ぐな存在であり続ける決意を込めて、毎年、向日葵を植えていく所存です。

 

 花壇を設けた椚田会館は、亡くなられた学生が尽力された学生会の場所でもあり、学生が集う場所でもあります。学生、保護者の皆様にも、空を見上げて生きて大輪の花を咲かせる向日葵が真っ直ぐに成長する姿を、大切に見守って頂きますようお願い申し上げます。

 

                   令和6年7月11日

                       東京工業高等専門学校長

                             樋 口   聰

 

別紙:本校学⽣の⾃死事案に関する学校としての取り組みについて (PDF 185.96KB)

 


【遺族の言葉】

2020年10月5日(月曜日)、4年前のあの日から、何もかもが変わってしまいました。陽向が何故亡くなったのか教えて欲しくて、何度もここ東京高専に足を運びました。陽向が書いた遺書を何度も泣きながら、教員の前で読んで、その後もまた読み返して、今も読んでいます。

 

遺書には、誰かに背中を押されたわけではありません。誰も呪ったりしない、私のことは早く忘れてください、とありました。そんなことを書いて陽向は死んでいきました。しかしそれは本意ではなかったことが後で分かりました。当時、新調した翌年の手帳には、学生会、定期試験、アルバイトの予定が、見覚えのある字で書かれていました。

 

東京高専が安全で安心できる学校に変わるきっかけとして、息子は自ら命を絶った訳ではありません。息子が亡くなる前にも全国の高専では過去10年で約100人の高専生が亡くなっています。一般の高校、大学と比べて自死率は2〜3倍と言われ、年によっては5倍でした。既に取組みを変えて対応していかなければならないことは明らかでした。

 

もう息子は戻ってきません。何をやっても戻ってこないのです。東京高専では、息子が亡くなった前年、4年前にも、学生が自ら命を絶っていました。学生の皆さんは、身近には感じられないかもしれませんが、自分にも起きる可能性のあることで、決して他人事ではありません。私は後援会で理事をしていましたが、高専生の自死については、何も知りませんでした。

 

現在、第三者委員会の調査が設置からほぼ丸3年継続しており、報告書は近いうちに出る見込みです。その際は報告書の内容について、東京高専、高専機構とは話をさせていただきたいと思います。東京高専では、息子が遺書に書き残した提案も含めて、樋口学校長からは必要な取り組みは進めていくと伺いました。長い時間がかかりましたが、東京高専をよくしていきたいという息子の思いに向き合っていただき、有り難く思います。

 

向日葵の花言葉には「情熱」があります。一生懸命に何かを頑張っている人に、「あなたが頑張っていることは知っているよ」とお互い声をかけ合い、対話していただけたらと思います。息子は周りの人に、そんなふうに接していました。

 

本日は、ご参集いただきありがとうございます。また花壇設営に関わられた関係者の方々、大変、暑い中、ありがとうございます。

 

まだ向日葵の花は咲いていませんが、みなさまには、この花壇、陽向のことを温かく見守って欲しいと思います。今日7月11日は、陽向が生きていれば22歳の誕生日です。今、向日葵の花壇を前にして、陽向が生きていたこと、ここで生きようとしていたこと、そして亡くなったことを忘れないように、東京高専の先生、職員の方々、学生のみなさんとともに、思いを一緒につなげていただきたいと思っています。

 

以上

 

2024年7月11日

東京高専学生会長指導死遺族    野村正行